オーストラリアのバンバリーに住んでいます。
5月になりオーストラリアは冬が始まりました。
私は相変わらずミートファクトリー(食肉工場)で働いていますが、ワーホリも残り3ヶ月となったところで生活に変化が現れます。
前回▼
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掛け持ちジョブ
肉にもシーズンがあるなんて!
2nd Working Holiday Visa
通称セカンドビザ。
オーストラリアのワーホリにのみ適用されるシステムで、政府指定の農場や工場で88日以上働くともらえる2年目のワーホリビザのこと。
セカンドビザを取得するためにもともとはファームジョブ(畑仕事)を探していましたが、時期を見誤って仕事探しに苦戦しました。
そのせいでミートファクトリーで働くことになったのですが、なんと5月から仕事が週1日減ってしまったのです。つまり月〜木の週4日勤務、毎週末3連休。
人間は年中肉を食べるものだと思っていましたが、なぜか冬になると消費が落ち込むそうで、その分仕事も減ってしまいました。
それまでは1日6〜7時間を週5日、週35時間前後働いていましたが、1日4〜5時間で終わることが多くなり、さらに週4日。
週20時間を切るという予想だにしなかった事態に私は焦りはじめました。
目的はセカンドビザの取得であって収入は二の次だと思っていたのですが、人間は欲深い生き物でやっぱりお金は欲しいのです。
私と同じミートファクトリーで働く人たちがピザ屋や短期ファームで次々と掛け持ちバイトを開始しはじめました。
私も何か違う仕事を掛け持ったほうがいいなと思っていたところ、良い話が舞い込んで来ました。
クリーナージョブ
私が働くミートファクトリーには韓国人がたくさん働いています。
彼らと仲良くしていると美味しい情報をもらえることが多いのですが、あるひとりの韓国人の友達がワーホリビザ終了とともに仕事を辞めるという話を聞いたのです。
掛け持ちの仕事も辞めるよ
掛け持ちって?
昼過ぎに工場が止まって俺たちが去ったあと、別の会社が血まみれになった工場内を毎日夜までかけて掃除してるんだ
じつは俺はそこでも働いていたんだよ
もしシンが暇なら俺のあとにやってみる?
すっごい大変だけど
ということで謎のクリーナージョブを紹介してもらったのです。
マイケル
15:00には控え室の前のベンチに座ってるからね
俺からも言っとくからね

OKありがとう
韓国人の彼に言われるがまま15:00にその場所に行くとマイケルはいました。
- [マイケル]
こっちに来て
面接などのインタビュー的なものは無く、あれよあれよのうちに契約終了。
死ぬほどダサい作業服を渡されて次の週から仕事が始まったのでした。

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ビーフフロア
今日1日で覚えてもらうからな?
よろしくお願いしゃっす!
ドキドキしながら彼に連れて行かれたのはビーフフロア。
私が働くラムのフロアとは別の場所にあります。
そのあとちょっとやって見せるからよく見とけよ
ひととおり説明してもらったあと、マイケルは直径5〜6cmのごん太ホースを解いて血まみれ脂肪まみれの工場内に噴射しはじめたのです。
めっちゃ危険だから水が出ている間は絶対にホースから手を離しちゃダメだ!
私はまったく予想していませんでした。
ホースから出てくるその水の尋常じゃない勢いと温度を。
90度の熱湯がとんでもない勢いで噴射され、腰を軽く落として踏ん張ってないと水の勢いでうしろに後退してしまうのです。
もし勢いに負けて手を離してしまった場合ホースは大暴れ。
熱湯を工場内に撒き散らすことになり、作業員は全身大火傷を負ってしまう可能性があるというかなり危険な仕事だったのです。
この熱湯ホースで壁や機械に噴射してある程度の脂肪、血液、その他汚れを落としきる
▼
専用の強力洗剤で自分の持ち場すべてをスポンジがけ
▼
再びホースで泡を落とす
▼
機械や器具などのセッティング
この4段階で終了。
説明を受けるとさっそく私も見様見真似でクリーニング開始!

思っていた何倍もの勢いです!
かなりコントロールが難しい!
ストップストップ!
もっと短く持て!

約3時間熱湯を噴射し、スポンジで擦り続けてやっと終わったのですが…。
あのランナールーム
疲れた〜!
じゃあ次行くぞ
これで終わりだと思っていたのですが、私の担当はもう1箇所あるらしく、マイケルに連れられてビーフフロアから出て行きます。
そして連れていかれた場所は…
ランナールームとはラムの屠殺のフロアから降りてきた腸を処理する通称うんこ部屋です。

昼の工場員としての仕事で私が数々のポジションをたらいまわしにされていた時期に2週間ほど働いた汚すぎる場所です。
こちらもビーフフロアと要領は同じでしたが、脂肪汚れが付着しておらずビーフフロアよりはかなりラクでした。
と意味不明なことを思いながら2時間ほどで終了しました。
初日ということでマイケルにチェックしてもらいます。
あとはこのへんをもうちょっとやってくれ
そしてプラス30分、ついに終わりました。
4時間分の給料しか渡せないからだいたい4時間でやってもらうぞ
3時間で終わっても4時間分支払うからがんばれ!
じゃあまた明日よろしく!
この日だけで合計6時間弱、15:00からはじまるので帰宅するころには22:00です。
ワイン飲む?
次の日のミートファクトリーの仕事は朝6時からなので帰ってからのんびり酒を飲んでいる時間はありません。
誘われてなんとなく始めたクリーナーの仕事でしたが、思っていたよりもかなりハードで危険でした。
こうして地獄の労働の日々がスタートしたのです。
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毎日のルーティーン

見てのとおりかなりハードな毎日です。
最初の3回くらいはコツを掴むまではやっぱり6時間かかっていましたが、少しずつ慣れてきてだいぶ早くなりました。
しかしそれでも5時間はかかってしまいます。
紹介してくれた韓国人の彼はもう国へ帰ってしまったのでうまいやり方を聞くことが出来ず、自分で試行錯誤しながらタイムを縮めることに努めました。
1ヵ月ほど経ったある日、私はあるふたつのことに気付きました。
これだけ大きな工場なのにタイムカードを押す時には私しかいないこと。
もうひとつはいつも帰る時にはいつも私が最後だということ。
何かがおかしいと思って違う場所を受け持っているおばちゃんに聞いてみました。
なんで?
5時間かかってる
私はいつも21:00過ぎてるのですよ
そりゃ遅過ぎるわね〜
何時にはじめてるの?
昼の工場が止まった瞬間クリーナーは仕事開始していいの!
最近は寒くなってきてるから工場自体が早く終わってるでしょ?
あたしゃ早い時は12:30にははじめるよ!
そうだったの⁉︎
知らなかった…!
たとえ昼の仕事が12:00に終わったとしても律儀に15:00まで暇を潰して待っていた私はどうやらただのアホだったらしく、もうその時間には私以外のすべてのクリーナーが仕事を開始していたのです。
なんでこれまで教えてくれなかったんだろう…。
それからというもの毎日1〜2時間短縮することが出来るようになりました。
毎日20時前には帰宅できるようになったのです。
しかしそれも長くは続きませんでした。
毎日仕事が終わると基本的には工場内を探しまわってマイケルを見つけ出して終わった報告をしなければいけないのですが、とにかく彼を探し出すのが面倒なのでそのまま帰る人が多いです。
しかし意外に真面目系バックパッカーの私は律儀に報告をしていたのですがそれが裏目に出てしまいました。
ちょっとチェックさせて
ふむふむ…ほほう…なるほど
ん〜ここらへんもうちょっとやってもらおうかな
あとここ!
なかなか手が届かない所だけど汚れやすいから頼むわ
毎日頼む!
お前の担当になるからよろしく
なんと私が慣れてきて余裕が出てきたと思ったマイケルは新たに全然違う場所の仕事を与えてきたのです!
仕事開始時間は早くなりましたが結局また毎日6時間コースに戻るのでした。
かつてないほど体がぶっ壊れる
クリーナージョブの時給はミートファクトリーと同じくらいで25ドルほど。
毎日4時間クリーナーをやることで日給に100ドルプラスできます。
これは稼げる!と最初は意気込んでいたのですが、2週目に入った時には体はボロボロ。
体の各所に異常が現れました。
バネ指
バネ指とはその名の通り指がバネのようになってしまうこと。

帰りの運転でハンドルをうまく握れないほど、毎日握力を使い切っています。
太くて重いホースを思いっきり握っているため両手の人差し指と中指が完全にバネ指になってしまったのです。
幸い昼のミートファクトリーでの仕事にはあまり影響しませんでしたが、箸も満足に使えないくらい酷くなってしまいました。
目が開かない!
ミートファクトリーは名の通り肉を扱う工場なので、衛生管理のためにこのクリーナージョブの責任は重大です。
仕事中は数種類の薬品を扱うのですが、滅菌のためにかなり強い洗剤を噴射していました。
ヤバそう!と思っていたのでホームセンターで購入したイケてるゴーグルをつけたりと工夫して仕事をしていましたが、それでも顔や頭部に付着した薬品が汗とともにジワジワと目に入ってくるのです。
1日2〜3回は洗剤が目に入って急いで顔を洗うという危険過ぎる仕事ぶり。
そして気付いた時にはもうすでに遅く、大変なことになってしまいました。
ある日の朝起きると、目が開かなくなっていたのです!

これはヤバいと思って鏡を見ると両まぶたがガンガンに腫れていて、眼球は白い部分がなくなるほどに真っ赤っかだったのです!
それからというものツバ付きのキャップをして仕事をするのでした。
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寝不足大火傷事件
もちろんそれまでより睡眠時間は短くなりました。
さらに疲労は2倍以上。
- [あいつ]
と思うほどにキツい毎日です。
集中力もなくなり常にボーッとしています。
終いにはなるべく体力を使わないようにと感情すらも無くなってきました。
前のように毎日楽しい仲間たちとビールを飲んでいたのが嘘のように、帰ったら引きこもるようになってしまったのです。
そしてクリーナーをはじめて2ヵ月が経ったある日。
もはや完全に体が仕事を覚えているため、脳内はいかにこの日ラクして仕事を終えるかというトピックのみ。
お湯を止めに行ったついでに洗剤補充して…
そん時マイケルいなかったら壁は濡らすだけでやったことにして…
フレームは昨日やったから今日はいっか…
それから、それから…
ボーッと考えながら歩いていたその時!
熱湯が噴射しているホースを持ったまま落ちていた牛の脂肪で足を滑らせてしまい激しく転倒!
ズルン!!
勢いが強すぎてホースが熱湯を撒き散らしながら暴れまわっています!
まわりには数人のクリーナーがいるので、早急に蛇口を閉めるかホースを掴むかをしなければなりません!
熱い!!
咄嗟の出来事で一心不乱にホースを掴みに行ったのですが、左腕と左の腹部にガッツリ熱湯を浴びてしまい大火傷を負ってしまいました。
すぐに冷やせばなんとかなったのでしょうが、そんなことをしている暇はないためすぐに作業へ復帰。
帰宅後シャワーを浴びる時に皮膚がズルズルに剥けているのを見て
と明智軍に討たれる寸前の信長のような気持ちになったのでした。
知らぬ間に迎えていた体の限界
私は昔から風邪も引いたことが無いし、お腹をくだしたことも無いくらい強い体を持っています。
しかし注意散漫でテキトーな性格であるため、大人になっても怪我が尽きません。
なので今回のバネ指や大火傷に関しても特に気にせずに仕事を続けていました。
しかし私の意思とは反対に、ついに体が
と言ってきたのです。
私が泊まっている部屋は4人部屋でしたが、バンバリーが冬になり多くの人がこの宿から出て行ったので、この時期はひとり部屋でした。
そんなある日。
いつものようにヘトヘトで帰宅してシャワーを浴びてすぐに眠り始めたのですが、眠りはじめて2時間、深夜1時ごろに私は飛び起きました!
いたたたたたたたた!
いた〜い!!!!
なんと両足のふくらはぎと両足の裏もも計4箇所が同時に全部つったのです!
想像してください!
片足だけでも地獄なのに両足同時!
しかもルームメイトがいないから誰も助けてくれない!
解除の方法がわかりません!
結局かなりの時間をかけて謎の体制で片足ずつ解除。
第2波を恐れた私は一旦しっかり目を覚まし、汗だくになったので再びシャワーを浴びて、全身ストレッチをして再び眠りにつく頃には4時。
どんなにつらくてもしんどくてもタフさだけで人生を乗り切ってきた私ですが、この時はじめて自分(29)がアラサーだということを実感し、無茶をするのはやめようと思ったのでした。
前回▼

次回▼
