バンバリーという西海岸の町に移動して来てついにミートファクトリー(食肉工場)で仕事をゲットしました。
もうこの際グロ仕事覚悟で『屠殺』の会社に入ったわけですがどうなることやら。
前回▼
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ドン引きのミートファクトリー
一緒に面接へ行き、採用された英語ペラペラマッチョのきんにく君(24)
- [きんにく君]
[5:30]
彼とともに仕事へ行きます。
本来は6:00から仕事開始なのですが、初日はユニフォームの採寸や長靴の支給、そして安全確認のビデオを見せられるなどのオリエンテーションから始まりました。
すべての準備が整い、マイクベルナルドをちっちゃくしたような人事のマネージャーに連れられてポジションを割り振られます。
- [マイクベルナルドマネージャー]
そっちのキミは確かサムライのケンシンだね!
期待してるよ!
ナイフが得意なんだよね?
ポジションはナイフハンドだな
面接時、なぜかるろうに剣心の話になり今後工場内で『ケンシン』と呼ばれるようになるこの私。
多分ローディング(積荷)かリフティング(持ち上げる系)になると思うよ!
パワフル系がいいだろうな
ミートファクトリーの仕事のキツさは完全にポジション次第。
マネージャーがいうように個人の特性を見て上手いこと振り分けられるのでしょう。
工場内に入った我々は度肝をました。
うるさい!クサい!
工場内は大きめのファミレスくらいの広さです。
様々な機械の音が一定のリズムで鳴り響き、頭がおかしくなりそうなほどうるさい場所でした。
そして生々しい動物のニオイで鼻がねじ曲がりそうなほどの悪臭。
さらについさっきまでは生きていたのであろう羊が丸裸の状態で血を垂らしながら等間隔でぶら下がっていて、ゆっくりと一定のスピードで流れています。
その中で50人ほどの作業員がせっせと働いています。
言葉を失いました。
初めて見るミートファクトリーの内部の殺伐とした雰囲気に圧倒されてしまった我々はこれ以上無いくらいにドン引きしているのです。
最悪のポジション
ここはラム(羊)のKill Floor-キルフロア。
つまり殺し部屋であります。
面接の時からここに配属されるのは分かっていたのですが、キルフロアという割には殺す瞬間やそのすぐ後の処理をする場所ではなく、もう少し後の工程を行なっている場所のようです。
毛皮も剥がされてつるつるの状態の肉の塊がぶら下がっています。
この時私は少しホッとしました。
何故ならグロいのが本当に嫌だったからです。
しかし!
私ときんにく君が入れられたポジションは……。
彼はスーパーバイザーだから言う事聞くんだよ
それじゃあ頑張って
つるつるマネージャーにフロアの奥まで連れてこられたあと、そのスーパーバイザーと呼ばれるおっさんから指示を仰ぎます。
- [スーパーバイザー]
お前ら日本人か
じゃあ今日はポジションの空きがないからふたりで同じ所でやってもらおう
よしこっち来い!
スーパーバイザーについて行くとその先には何も無いと思っていた壁の裏側。
ここは羊が殺されたあとすぐの場所(図1,2)。
毛皮を剥ぎ(図1)、頭を切り落とす(図2)ポジションだったのです!
そして我々がこの日やる仕事はハンギングと呼ばれる仕事です。
頸動脈を切られて、後ろ足だけを吊られて血を垂れ流しながら逆さまになっている羊が流れてきます。
毛皮をベリリッ!と剥がされて、その後頭を切り落とすポジションの人が3〜4人スタンバイ。
その人たちが首を切りやすいように前足をハンガーに掛けるという作業が私ときんにく君の仕事です。(▲図1と2の間の緑色の所)
一面血まみれ吐瀉物まみれ!
切り落としたての羊の生首がゴロゴロ転がっています!
入室時に感じたニオイの10倍のくささと100倍のグロさで、この私、嘔吐寸前です!
ついてない!
「ナイフ使えるか?」
「はい!得意です!」
当たり前ですが羊の前足は2本。
きんにく君と1本ずつ交互に、ひたすらハンガーがけをしていくのでした。
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グロさより右肩がしんどい
[次の日]
初日はオリエンテーションなどがあったため他の従業員から3時間遅れで仕事を始めた私ときんにく君でしたが、2日目からはみんなと同じ時間から仕事を始めます。
この日も相変わらず血まみれグロポジション。
きんにく君とふたりでだだひたすらに羊の前足をハンガーに掛けていきます。
それに辞める人とか休みの人とかいるから、いきなり持ち場が変わったりするらしいですよ
ここ以外だったらどこでもいいわ…
何故私がこのポジションが嫌なのか?
もちろん現場のグロさは言うまでもありませんが、そんなことよりも肩がしんどいのです。
1日3000頭もの羊を殺すこの工場。
数えてみたのですが、6秒に1頭の間隔で流れていました。
つまり6秒に1回重い前足を持ち上げてハンガーに掛けなければいけないのです。
しかも今はきんにく君とふたりでやっていますが、もしこれが通常通りひとりでやらされた場合、6秒に2回持ち上げることになります。
さらにこのレーンのシステム的に、どちらの足も右手で持ち上げるので、右肩にのみ負荷がかかってくるのです。
早くも我々ふたりは「辞めちゃう?」
みたいな話をしはじめるのでした。
まさかの展開⁉︎きんにく君解雇
慣れとは恐ろしいものです。
2日目にしてグロさやニオイに早くも慣れてきています。
しかし右肩への尋常ではない負担で、仕事内容自体に慣れることはまったくありませんでした。
たまにビリッ!と痛みが走るようになってきて、このままでは右肩がぶっ壊れてしまうのではないか?と心配しはじめたころ、スーパーバイザーが我々ふたりのもとへ現れました。
お前らいつまでふたりでやってんだ?
ここはひとりでやるポジションなんだぞ!
我々あれから指示もらってないですし
僕ら昨日入ったばっかりなんで
とりあえずこうやって昨日言われた通り同じことやってます
じゃあちょっと待っててな
そう言い残し、スーパーバイザーはどこかへ行ってしまいました。
これは⁉︎
ポジション移動のチャンスではないか⁉︎
おそらく私かきんにく君のどちらかがこのハンギングのポジションに残るのだと思われますが、どう考えてもガリガリの私にこの仕事は相応しくありません。
ぶっちゃけ僕は大丈夫ですけど
シンさんキツそうですもんね
私がもう限界だということにきんにく君も薄々気付いています。
[30分後]
スーパーバイザーが戻って来ました。
ちょっと話そうか
そこの筋肉野郎はちょっとの間ひとりでやっててくれ
分かりました!
まずは私が呼ばれてきんにく君の1mうしろくらいでスーパーバイザーと話します。
じゃあどこかのポジション任せるからそこのスペシャリストになれ
あとお前はナイフの使えるって聞いてるけど?
じゃあまた呼び出すから筋肉男と変わって
やった!やった!
ついにこの地獄のポジションから離れられるぞ!
嬉しすぎて涙が出そうです!
予想した通り私のほうがどこか違うポジションへ移動するようです。
話が終わったらきんにく君に声をかけて交代。
今度は私がひとりでハンギングをやりながら、私のすぐ1mうしろで彼とスーパーバイザーが話をします。
きんにく君と交代する時にひとことだけ言葉を交わしました。
ポジション変わりそうじゃないですか?
てか話聞こえてた?
それもそのはず。
真後ろ1mの所で会話をしていたのです。
なんときんにく君と話したのはこの「良かったっすね」「聞こえてた?」が最後となってしまいました。
私と交代でスーパーバイザーと話しはじめたきんにく君。
常に鳴り響く機械音でうまく聞き取れませんが、英語ペラペラのきんにく君はだいぶ長い時間スーパーバイザーと喋っています。
でもやっぱ右肩にばっかり負担がかかるんで、たまには違うこともやらないと肩が上がらなくなりますよ
あはは
やれないのか?
この筋肉みてくださいよ!
でもずっとは無理です!
だって右肩にばっかり…
GO HOME!!帰れ!!
(Go homeって聞こえたぞ!?)
なんと「長期的にこの仕事をやると肩がイカれる」という発言をしたばっかりに、きんにく君はクビになってしまったのです!
しかし私は6秒に1回2本の前足をハンガーにかけている最中でうしろを振り向くことなど出来ません。
気づいたらきんにく君はいなくなってしまったのでした。
そしてきんにく君がいなくなってスーパーバイザーが私のもとへ再びやってきます。
また指示する
やれんのか?どっちだ?
やらせてもらいますよ!
さっきのナイフジョブへの移動の話は無かったことになったのでしょうか…。
結局この日の後半はきんにく君無しでひとりでハンギングをして仕事を終えました。
仕事が終わり、拠点にしている宿ワンダーインに戻るときんにく君の姿はありません。
宿泊者のメタルちゃんがいたので聞いてみました。
なんかあったん?
面接から採用そして出勤まですべて彼と一緒だった私は途端に寂しくなってしまいました。
メタルちゃんに今日あったことを話します。
わたしも前に二日酔いで仕事行って仕事場で寝てたらクビなったで
あんたのとは種類が違う!
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ナイフハンドへ
[次の日仕事3日目]
この日からはきんにく君もいないのでひとりで仕事です。
もはや私の右肩は筋肉痛の向こう側、五寸釘を何本も肩の関節にブッ刺されているような痛みです。
また私のこの薄い筋肉があれだけハードな労働を受け入れるわけもなく、肩が上がらなくなってきています。
こればかりは気合いとか我慢とかでなんとかなる問題ではないのです。
そして朝6:00。
いつも通りハンギングの場所へ行きます。
するとそこには力士並のサイズ感の大男とスーパーバイザーが立って話していました。
ケンシン、今日からお前はナイフバンドだ
これ!
なんと私はナイフセットを受け取り、この日からナイフを使うポジションに移動することになったのです。
今日からこいつがやる
あの筋肉野郎はまだ来てないのか?
せっかくあいつのためにいいポジション用意したんだけどな…まあいっか
勘違いでミートファクトリーを去ってしまった可哀想なきんにく君。
私はこの日から5種類の内臓を切り分けるポジションにつきました。
ハンギングよりも手数が多いのでなかなか忙しいのですが、パワーを要さないのでこれまでとは違い続けられそうかなと思います。
散々な始まり方をしたミートファクトリーですが、なんとか私に向いているポジションを与えてもらい一安心です。
しかし…やっぱりそう甘くはないですよね…。
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