前回からの続きです。
私が住処にしているバンバリーのバックパッカー宿ワンダーインで宿全体を巻き込む大喧嘩が勃発した話。
前回▼
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イナヤン
夏が終わりだいぶ寒くなってきたバンバリー。
これまでともに過ごしていた人たちが温暖な地を求めてオーストラリア北部へ移動して行き、一時期は30〜40人いた長期滞在者も夏から残っているメンバーは15人ほどにまで減ってしまいました。
そんなある日イナヤンという台湾人の女の子がフラっとチェックインしてきました。
- [イナヤン]
デッカイ真っ白のセダン車に乗って現れた彼女はまるで田舎のヤンキー。
人数が少ないぶん、おとなしい彼女でもかなり目立っています。
男たちから質問攻めに合うイナヤンですが、意外にも初日から急接近したのはいつもはボケーっとサッカーゲームばかりをしている韓国人カズユキ。
どこか行きたかったら車出すよ
聞きたいことあったらなんでも聞いてね
近いスーパーは…
海外生活初心者の彼女に安いスーパーや仕事の探しかたを熱心に教えています。
これまでに無いくらいのははーんが出た私が何を察したかというと、カズユキがイナヤンちゃんに好意を抱いているのではないかということ。
彼女もまんざらでも無さそうな様子。
それはもうこっちが恥ずかしくなるくらいの距離の詰め方で、カズユキを良く知る私や他のメンバーはニヤニヤと彼らを見守っていました。
しかしそのふたりを忍者のように遠くからコッソリ見ていた男がいたのです。
スネオvsカズユキ
バッチバチ
▼私が特に仲が良かったのはこの6人
- [いつものメンバー]
カズユキとスネオ以外は日本人です。
私を含む7人でよく遊びに行ったりしていたのですが、カズユキとスネオは日本語が分からないため日本人が日本語で話している間はふたりでよく喋っていました。
そのぶん彼らの友情もかなり深かったように思います。
しかしイナヤンの登場によりこのふたりが対立。
カズユキに続いてスネオもイナヤンに好意を抱いてしまったのです。
カズユキがイナヤンの近くにいない時間、スネオは隙を見てこっそりイナヤンに近づいていました。
3日もすればイナヤン、スネオ、カズユキの3人でよく行動するようになっていました。
ぱっと見仲が良さそうな3人でしたが、カズユキとスネオの間はバチバチのようです。
じつは以前フリーマントルにみんなで行った時に車内の空気が悪かったのはこのせいだったようです。

スネオはコミュ症でアニメアイドルオタクの超根暗ですが、デンマーク人というだけあって長身で真っ白の肌に真っ青の目を持ったイケメンです。
そしてなんとイナヤンはいろいろとお世話になっているギラギラ韓国紳士カズユキよりも、爽やかにさりげなくアプローチしてきたイケメンスネオのほうになびいていってしまいました。
くらいにしか思っていなかったまわりでしたが、この女の取り合いが大きな問題を呼び起こしてしまいました。
裏切る男
イナヤンがワンダーインに現れて2週間ほど経ったある週末の昼過ぎ頃。
私は平日の地獄の労働で体が動かなくなるほど疲弊していたため、テラスにあるハンモックに揺られて1日中ダラダラしていました。

するとイナヤン、カズユキ、スネオの3人が現れて何やら話しています。
(ほんとはバチバチのくせに)
私は横目で見ていただけだったのですが、カズユキがシャワールームへ向かった途端スネオが予想外なことを言いはじめました。
じゃあイナヤンの車で行こうか
稀に見る積極的なスネオ!
なんと同じイナヤンを狙うライバルのカズユキがシャワーを浴びに行った隙に「ふたりで出かけよう」とスネオが彼女を誘っているのです!
じゃあ…行く?
軽すぎるイナヤン!
結局イケメンスネオの誘いについて行った彼女ですが、部外者である私が止めるわけにもいきません。
これはカズユキ可哀想!
と私は思うのみ。
結局カズユキがシャワーを浴びている間にスネオとイナヤンはふたりでスーパーへ行ってしまいました。
シャワーを終えたカズユキがビショビショの頭をタオル拭きながら私の所へやってきます。
その面持ちは私の予想と反して穏やかではない様子。
イナヤンとスネオが消えてしまって落ち込んでると思いきや、それまで見たこともなかった殺し屋のような目つきで私に質問してきたのです。
あのふたり知らない⁉︎
スネオの野郎!
ファック!
スネオとイナヤンに交互に電話をかけまくるカズユキですが一向につながる様子もなく完全にブチギレ。
温厚で大人な彼がここまで怒っているのをはじめて見た私は動揺を隠せずかける言葉が見つかりません。
まさかカズユキがイナヤンにそこまで本気だったとはつゆ知らず、事件のニオイがプンプンしはじめたのです。
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カズユキvsおしんぽこ&キアラ
「スーパーへ買い物に行く」
というだけの小さなイベントであったはずなのにスネオとイナヤンが宿へ戻って来たのは21:00。
7〜8時間ほどふたりで消えていたのです。
何をしていたのか詳しくは知りませんが、おそらくデート的な時間を過ごしてしてきたのでしょう。
やはりカズユキに対して若干のうしろめたさを感じているのか、帰ってくるやいなや逃げるように自分の部屋に引きこもったスネオ。
何事も無かったかのようにビールを開けてひとりで飲みはじめるイナヤン。
そしてカズユキはというと、普段はあまり飲まないのにヤケ酒をしてひとりでベロベロになっていました。
一方で私はポテチ・マヨネーズ事件でお馴染みイタリア人のキアラと飲みながらふざけた話をして盛り上がっていました。

なんでシンはそんなに痩せてるの⁉︎
わははは
私飲んでないわよ!
食べたの!
わはは
あはは
そんなアホな我々のもとへベロベロに酔ったカズユキが現れました。
シンちょっといいかな?
スネオとイナヤンのことが相当こたえたのであろうカズユキ。
ゆっくりと自分の車の中へ我々を連れて行きます。
そして車内でこの日あった出来事を話しはじめました。
職場が同じである我々3人は特別仲が良かったため真剣に彼の主張を聞きます。
しかし私としてはあまりこういうマジ相談みたいなことを酒を飲みながら聞きたくはないのです。
可哀想なカズユキ。
横取りされた怒りとずっと仲良くしていたスネオに裏切られた悲しみで涙を流しています。
しかしメソメソするばっかりで時間が過ぎていくこの感じは正直しんどいです。
キアラにいたっては話も聞かずスマホゲームをやっています。
まあこんな日もあるよ
それも人生
と当たり障りのない言葉でこの場を穏やかなままで収めたかった私ですが、カズユキが酔った勢いで興奮しはじめたのです。
彼らふたりは特別仲良しだと思っていたので、意外過ぎるカズユキの発言に驚きます。
こないだなんかあいつ 「犬ってどんな味がするんだ?」って聞いてきたんだ!
犬を食べてたのは昔の人!
俺は犬は友達だと思ってるから食べたことないし、もうそんな文化は残っていない!
これは完全にヨーロピアンによる韓国人差別だろ⁉︎
もちろんカズユキが嫌がるようなことを笑いながら本人に言うスネオには少々幻滅ですが「仲が良いしこのくらいなら言ってもいっか」と判断したスネオなりのスキンシップだったのではないかと私は思いました。
なのに韓国は全部日本のパクリだとか、オリジナルは全部日本だとか、いつも日本がNo.1だってわざわざ俺に言いに来るんだ!
シンだって他の日本のみんなだって本当はそう思ってんだろ⁉︎
クソー‼︎
韓国なめんなよなマジで!
差別すんなよクソ共!
差別すんなよ世界!
あれ?飛び火してませんか?
感情的になって怒りの矛先がズレてきているカズユキは、最終的に日本へのフラストレーションを爆発させてしまったのです。
この日彼が悔しい思いをしたことを知る私は言葉を選ぶべきでした。
しかしいかんせん私も酔っていたため思ったことをそのまま言ってしまったのです。
そんなこと言われて悔しい?
あんたらはよく右か左かって話をしてるけど、私にとってそんなことはどうだっていい
だって選挙で一票入れる以外に自分で国を変えることなんて出来ないし、そもそも興味もないからな!
分かる?全部の日本人がそうとはもちろん言わんけど、多くの日本人は私みたいに国籍に誇りも無いし依存もしてない
だから日本がどうのこうの、日本人がどうのこうの言われても別になんとも思わんのだよ
そもそも今のこの場でそんなこと言うのは話違うんやない?
フクシマとかハラキリとかカミカゼトッコウタイとか言われたら怒るだろ?
だって「武士はなんで自殺すんの?頭おかしいだろ!」ってバカにされてるよ?
「なんだよ相撲って!デブがぶつかりあってコメディにしか見えない」って世界中から言われてるよ?
さすがに日本の歴史や文化をバカにされたら怒るだろ?
あと世界中からバカにされてるって言っとるけど
カズユキ、自分がそう思っているだけで世界の声は知らんだろ?
差別してんのはキミじゃないかな?
みたことあるよ
別に日本が何て言われようがどうだっていい
主観的にも客観的に見ても日本が作り上げた文化も日本人の性格も素晴らしいと私は思ってる
私は日本という国に愛国心も誇りも何も無いけど、誰に何を言われようが日本がすごい国であることは間違いない
そんなにムキになるくらいに韓国に誇りを持ってるんだったら、自分のとこの歴史や文化を信じて欲しいよ
そしたらスネオみたいな何も知らないデンマーク人に何言われようが関係ないでしょ
「ベラベラとアツく語ってる時点でちょっとピリッと来てるやん」と自分にツッコミながら感情的になったカズユキを抑え込むようなことを言ってしまい、場の空気は最悪。
カズユキとスネオのちょっとした小競り合いの話をするために車内に移動してきたのに、気づいたら差別がどうのこうのの話になってしまいました。
これまでカズユキと言い争いのようなことをしたことは無く、そもそもお互いそういう性格ではなかったので、はじめて感じるこの空気の悪さに黙り込む我々。
そしてカズユキがひとこと。
例えば人種で雇用を変えるような嫌がらせとかさ
でも文化とか見た目とかになんか言うのは、同じ民族間でも行われているただの好き嫌いのひとつだと私は思ってるよ
キムチがくさいってのには同意だし、同時にコプチャンチョンゴルは美味すぎると思っている
もしカズユキがそれを差別って呼ぶんなら絶対になくならないし、個人が世界の意識を変えるなんて不可能だから、差別はしょうがないって思ってるよ
差別はしょうがない
…分かった
ありがとう
バタンッ!
小さな声でそう言い残しカズユキはひとり車を出ました。
だいぶイライラさせてしまったようで心配ですが、最初に感じた「今にもスネオに殴り込みに行くのではないか」と思うほどの興奮状態はおさまっているようです。
しかし!それまで黙っていたあのワガママボディが口を開いたのです!
戦いなさいよ!男でしょ⁉︎
女は強い男に惹かれるものよ!
キリッ
あいつに「戦いなさい」はいちばん言っちゃいかん!
今はドラマティックな展開いらんぞ!
私はこれまで世界各所で喧嘩っ早い韓国人を幾度となく見てきましたが、韓国人コミュニティからなるべく離れて生活をしたいと言っていたカズユキに関しては別物だと思っていました。実際にこれまでそのような性格を見せたこともありません。
しかしキアラの「男なら戦いなさい」発言のあと、カズユキの奥底に眠るその遺伝子は健在であることを確認しました。

俺はカズユキじゃねえ!
ハン・ジョウンだ!
やっぱりキレた!
これはいかん!
このアホ女を連れてきたのは間違いだった!
すぐそこにあるビーチからの波打つ音以外は何も聞こえない静かで平和な夜のバンバリーに、カズユキの尋常じゃない音量の雄叫びが響きわたりました。
同時に肩を揺らして勇み足で宿へ戻るカズユキ。
直感でそう思った私は車を出てキアラを連れてカズユキを追いました。
続く
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