インドのゴアでタトゥーの修行をしています。
3年前に知り合った日本人女彫師のホリコさんと再会し、昼間は仕事見学、夕方から夜は現地民に無料で彫りまくるという毎日です。
- [ホリコさん]
そんなある日起こったミステリーの話。
前回▼
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お気に入りの店
私が滞在しているゴアのアンジュナビーチは「村」のような場所で、みんなが想像するゴチャゴチャしたあのインドの街とはかけ離れた静かな場所です。
▼みんなが想像するインドの街並み
▼アンジュナ
そのぶん飲食店も少ないので、必然的に毎日同じ店に行くようになります。
私はビーチ沿いにある小さなバーを気に入り、そこのスタッフやそこに溜まっている人たちと仲良くなっていました。
特に仲良くなったのは元気でお調子者、店主のサントシュ。
- [サントシュ]
彼の店にいつもいる、いつもポロシャツの襟が立っているバイタクドライバーのオムおじさん。
- [オムおじさん]
そしてオムおじさんの一人娘のラニちゃんです。
- [ラニちゃん]
うるさい、騒ぐ、生意気、これらの理由から私は子供が苦手です。
もちろんおとなしくていい子もいるとは思いますが、どっちにしろ接したところで何のメリットも感じないので基本的には子供を避けます。
特にそれが海外となれば間違いなく話が通じないし「まわりの迷惑を考える」という思考回路がない親によるしつけを施されているため、日本人の私としては子供が近くにいるだけでストレスなのです。
しかしそんな「子供が苦手」と公言することがちょっとクールでカッコいいと思っていたアホな私に心情の変化が訪れます。
なんとオムおじさんの娘・ラニちゃんが可愛くて可愛くてしょうがないのです!
4〜5歳くらいでしょうか。
もちろん彼女は英語なんか喋れないのですが、なぜか異常に私に懐いています。
- [私を見つけるとくっついてくるラニちゃん]
たまらんぜよ!
お父さんに似なくてよかったね!
ラニはシンのことが好きみたいだな!
いつもおとなしくて俺の横にいるんだけど、シンが店に来ると嬉しそうにしてるわ
私が大人になったのか。
はたまたラニちゃんが可愛い過ぎるのか。
こんなろくでもない私でも子供を可愛いと思う時が来るのです。
恥ずかしながらラニちゃんと少しだけでもお話をしたいと思った私はオムおじさんからたまにヒンディー語を習っていました。
サントシュの店の横に大量に溜まっていた店の工事後に出たのであろう木の板にヒンディー語の文字を書いたり、ラニちゃんに絵を描いてあげたりしてそこでの時間を過ごしていたのです。
そうつぶやいて12cmくらいの木の板に絵を描いて私に差し出すラニちゃん。

嬉しい!
完全にラニちゃんにデレデレの私。
サントシュの店に行くにあたって、もはや食事よりも彼女に会うことが目的となってきています。
暗闇の恐怖
ゴアに住み始めて2週間が経ちました。
昼間はホリコさんの店で仕事を見学し、夕方は現地民に無料でタトゥーを彫るという生活をしていました。
しかし2週間も経つと生活はだいぶだらけていて、この日は朝から晩までサントシュの店に居座りダラダラ絵を描く以外何もしていません。
あれ?そういやオムさんとラニちゃんは?
癒しのラニちゃんがいないのは寂しいことですが「可愛い」がすぐ近くにいると仕事の邪魔になるので、夜はひとりでサントシュのバーのテーブルにつき、ただひたすらにタトゥーの絵を描きました。
暑いのでビールをがぶ飲みしながら絵を描いていたのですが、ひとりで集中しすぎて気付いたらあたりは真っ暗。
そして気付いたらベロベロになるまで酔っ払っていました。
そろそろ帰ろうかな
[時間は22:00]
酔ったらどう変化するのかは人それぞれだと思いますが、私は通ったことがない路地を歩きたくなったりします。
それはまるで徘徊ジジイのように当てもなく歩いてみたりするほど。
見たことが無い場所を見てみたいという妙な興味に駆られるのです。
立ち上がるまで気付かなかったのですが、この日かなり酔っ払っていた私は
うぃ〜
と住宅しか無いエリアに紛れこんだのです。

店が立ち並ぶビーチ沿いから少しずつ灯りが少なくなっていき、気付いた頃にはあたりは真っ暗。
もちろん舗装もされていない砂利の道路に街灯などあるはずも無く、住宅から少しだけ漏れている微かな灯りと月が薄っすら照らしている道路を歩いて帰ります。
もしここがインドの都市部だったら「ヤバいやつに襲われるかも」と恐ろしくてこんな場所は歩けませんが、アンジュナは村なので全然怖くありません。
だいぶ酔っているし、気分良く農道を歩いていました。
しかし油断していた私はそこでとんでもない目に遭ってしまったのです。
暗くて気付かなかったのですが、なんと私の10mほど先によだれを垂らして唸っている4匹の野犬が立ちはだかっています!
グルルル…
ハッハッハッハッハッ…
グルルルルルルル…!
ワフ!うゥゥゥゥ…ワフ!

そして私が犬に気付いてゆっくりと後退りしめはじたのと同時に…
なんと私に気付いた4匹のヤバ犬は急に吠えながら私に襲い掛かってきたのです!

ワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンわんワンワンワンワンワンワンワンワンワン‼︎
酔っているので判断能力はかなり鈍っていますが、これだけは一瞬で判断できました!
そして狂犬病の可能性もあります!
狂犬病ウイルス
狂犬病を持っている犬に噛まれた場合24時間以内に治療しないと高確率で感染します。もし発症してしまうと100%死ぬと言われています。
こういう時に走ると余計に彼等を刺激して噛まれる可能性が高くなるとか言いますよね?
私は全走力で逃げます!
さっきまでベロベロだったのが嘘だったかのように猛ダッシュです!
そして石を拾いながら犬目掛けて全力投球です!
その姿はまるで三遊間の超打球を後向きのままキャッチして矢のような送球でファーストを刺すスーパー遊撃手(ショート)です!
うお〜!
投げまくりです!
一心不乱に石を投げまくりです!
犬が可哀想?
インドの犬に噛まれて人生終わるほうが可哀想すぎるやろ!
20球ほど投げたでしょうか。
私を追ってくる野犬は1匹ずつ減っていき、最後の1匹も投石にひるんで逃げていきました。
暗くてよく見えませんでしたが、草むらの中にポツンとあった人が住んでいないズタボロの民家のような場所に身を潜めてなんとか犬から離れることができたのでした。
ハァハァハァ…‼︎
マジで…‼︎マジで死ぬところだった…‼︎
酔っていたこともあり、急に動いた私は嘔吐寸前。
なんとか我慢して息を落ち着かせてまた暗い農道へ戻りました。
しかし…
ワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワン‼︎
先程の4匹とはまた違うタイプの野犬です!
追ってくるわけではありませんが、今度はめちゃくちゃデカい!
しかも今にも襲いかかって来そうなほど牙丸出しでこちらを睨みつけて吠えまくっています!
これはまた先ほどと同じように石を投げて逃げ切りたいところですが…
なんと背の高い草が生い茂っている草むらにいるため、先程の砂利道とは違って地面に適当な石が無いのです!
ワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワンワン‼︎
噛み殺される!
パニックです!
もうあと少しでも刺激したら一瞬で喰われて人生終了といったところ!
人間は窮地に立たされたとき世の中の何よりも自分の命が大事だということを、本能が己の脳の中枢をバキバキに刺激してくるのです!
そう!なによりも!
それはもうポケットに入っているiPhone5なんかよりも自分の命のほうが大事なのです!
投げるものが無く、パニックになった私はすかさずiPhoneをポケットから取り出して犬に向かってサイドスローでぶん投げました。
キャイン!!
手裏剣のように回転しながら飛んでいった私のiPhoneは見事野犬の前足付近に当たり、びっくりした野犬は全速力で私から去ってくれたのでした。
いつもは死んだように地面に張り付いているゴアの野良犬は夜になるとかなり凶暴になるようです。
なんでこんな目に…
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情けないバックパッカー
再び民家の壁に隠れて息を落ち着かせます。
そして周囲にもう犬がいないか確認しながら、ぶん投げたiPhoneを探しました。
このへんだったよなぁ…
無いんですねぇ!
遠くの民家の灯りと月明かりだけを頼りに探すのですが、膝の高さまで生い茂る草むらの中からiPhoneを探すのは困難を極めました。
もはやどのあたりに投げたのかも分からなくなってしまいました。
自分の命よりも大事なものなど無いはずなのですが、やっぱりバックパッカーにとってiPhoneはその次くらいに大事です。
しかしまったく見つかる気がしません。
いや…ていうかそもそもここどこだ?
無心で犬から逃げて来たため、自分が泊まっている宿がどっちの方向にあるのかも分からなくなってしまいました。
そして…
ザァァァァァァァァァァァ…
追い討ちをかけるように大粒の雨が降ってきてここでギブアップ。
2013年に買ったボロボロのiPhone5は耐水ではないため、水濡れで一発アウトです。
ガックリと肩を落として私はiPhoneを探すのをやめてしまいました。
なんとか民家の灯りを頼りに分かるところまで出ることができましたが、また後日先ほどの場所まで戻れる自信はありません。
もしかするとiPhoneは生きているかもしれないと、わずかな可能性に懸けてこの日は宿に帰ることにしました。
びしょ濡れになりながらなんとか宿へ到着。
ガチャッ…
アンジュナのゆるい雰囲気と、長期で住み込んでいるこの宿の安心感によりカギが開きっぱなしのまま外出していた私。
宿のオーナーは信頼できる人だし、客室はひとつしか無いので宿泊者は私しかいません。
もちろん誰かが侵入したような形跡も無く、物が盗まれているようなことはありませんでしたが、それでもここはインドです。
戸締りをせずに出歩くなど、バックパッカー失格なのです。
酔っ払いながらも自分の情けなさとだらしなさに落胆しながらゆっくりと服を脱ぎシャワーを浴びました。
体を拭いてベッドに倒れこみ、この落ち込みまくった気持ちをリセットすべく深い眠りについたのでした。
ホラーよりのミステリー
チュンチュン♪
チュンチュン♪
テンテンテレテンテレテテン♪
テンテンテレテンテレテテン♪
小鳥の鳴き声と、いつものように毎朝8時にかけていたアラームのメロディで目覚めました。
なんでアラームが鳴る!?
なんでiPhoneがある⁉︎
昨日犬に向かってぶん投げたのに!
草むらの中をあれだけ探したのに!
雨に打たれてぶっ壊れているはずなのに!
何故かベッド横の小さなテーブルの上に充電器に繋がれたiPhoneが朝8時をお知らせしているのです!
もちろん命の次に大事なiPhoneが自分の手元で正常に機能していることは嬉しい限りでありますが、ミステリーにも程があります。
誰かが拾って夜中にこっそり部屋まで持って来てくれたのか、iPhoneが自分で歩いて戻って来たのか。
そんなあり得もしないことを考えましたが、実際は部屋に置いたまま外出していたのでしょう。
確かに前日は外でiPhoneを触っていなかったような気がします。
じゃあ…
じゃあ昨日ポケットから取り出して野犬に投げた物は何だったんだ?
とにかく昨晩は大パニックでポケットにあったものを投げたのですが…
12〜3cm!
厚さは1cmないくらい!
重量も握った感じもiPhoneそのものだったので、ラニちゃんがくれた木の板を私はiPhoneだと思って犬にぶん投げていたのです!
そしてありがとう!
私はその板のおかげで犬から逃げることができたし、iPhoneも無事だったのです。
ラニちゃんの父上であるオムおじさんにその話をしようと思い、再びサントシュの店に足を運びました。
ほんと毎日くるよな!
シン!元気か?
いつものように3人と会いました。
そしていつものようにラニちゃんは嬉しそうに私の足にしがみ付いてきます。
そして私はラニちゃんの手元を見て驚愕しました。

なんと昨日野犬に向かってぶん投げて無くしたはずの木の板をラニちゃんが持っているのです!
せっかくラニからプレゼントもらったのにこのテーブルに置きっぱなしだっただろ?
ラニはそれをシンにあげるからってずっと持ってたんだよ
未来の彼氏にってな!
がっはっはっはっ!
そ…そんなバカな…
さらに前日はiPhoneを部屋に置きっぱなしのまま外出していたと思っていましたが、前日に撮ったラニちゃんの写真がある事にも気付き、今回の件は完全に迷宮入り。
- [その日に撮っていたラニちゃんの写真]
iPhoneは持って外に出ていた?
木の板はラニちゃんがずっと持っていた?
いったい私は何を犬に投げたんだ?
ていうかなんか投げたっけ?
そもそも犬に会ったっけ?
「前日は酔っ払い過ぎていて全部夢だった」と考えたほうが一番納得がいくほど不可解なアンジュナでの出来事の話でした。
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次回▼

ちなみに宿の部屋の鍵を無くして弁償したのはこの2週間後の話です。
- [私が無くした部屋の鍵]
不思議ですね~でもそんなこともある。。。と思います。
投稿いつも楽しみにしています!
ありがとうございます!最後のところまで見てもらったかわかりませんが、要は酔っ払って宿の鍵を無くした話です
こんにちは。
以前ブログを読んでいた者です。
久々に見に来てみたら、更新が1年ほど止まっていました。お忙しいのでしょうか。また更新を楽しみにしています。