シドニーに到着して早くも4か月が経ち、5ヶ月に突入しました。
夏が来て山に行ったり海に行ったりとオーストラリアらしい遊びをしながらも相変わらず毎日忙しく労働を続けています。
ブログのオーストラリア編の序盤ではお店の話を何回かしましたが、今回はお店に現れた新たな人物により今後のことを考えさせられたという話。
前回▼
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無一文から脱却
思い返してみるとほぼ無一文になるまで遊んでいたタイ・ラオス編。
その後【旅行記146】で仕事が決まったのですが、それはオーストラリアに入国して2日目のこと。
前日の夕方にシドニーに到着しているので、入国して24時間も経つ前に仕事が決まったのです。
つまりオーストラリアの生活が始まって4ヶ月経ったということは、愛すべき職場・咲良レストランでの勤務も4ヶ月が経ったということです。
最初は時給14ドルでスタートしたのですが、持ち前のタフさと貧乏人の底力を発揮しすぐに時給は16ドルにまで上げてもらいました。
しかしそのぶん任される仕事は増えに増え、なかなか大変な毎日を送っているのも事実です。
あと倉庫の小麦粉いくつあったっけ?
これ終わったら見ときます!
小麦粉は…た…確かあと2〜3袋あったと思います!
一応先に見といて
次の早番交代してくれる?
だ…大丈夫だよ!
ちょ…!ちょっと待っててね!
小麦粉数えに倉庫行ってくるから!
モンストのガチャ一緒に回しましょうよ!
相変わらずのてんやわんやでで、毎日汗だくのボロボロになるまで動き回っております。
しかしなんだかんだでこういうのが自分には合っているんだろうなぁとつくづく思うのです。
超貧乏人状態でいきなり現れた私をその場で即採用してくれて、さらに週60時間という膨大な時間数をシフトに入れてくれるオーナーやすえさんには感謝の気持ちが尽きません。
入国時は全財産400ドル、次の日には300ドルを切ってしまい、一瞬死を覚悟しました。
しかし毎月3,000ドル以上も稼がせてもらえるようになったので高いスケボーを買ったり、高い家賃の家に引っ越してみたり。
さらに遠出して遊びに行ったりしながらも、気付いたら貯金は7,000ドルを超えていたのです。
仕事探しの時、当初は
「時給が安いしょうもないジャパレスの仕事なんかすぐに辞めちゃって、少し貯金ができたたらローカルジョブ(現地人経営の時給が高い仕事)を探そう!」
と思っていましたが、もはやその必要は無いほどのスピードで金が貯まっていきました。
ボスと呼ばれる男
この咲良レストランは寿司的なものからラーメンやカレーライスなど、日本人が日本でよく食べているものをラインナップしているいわゆるよくある海外のジャパレス(ジャパニーズレストラン)です。
上記の「任されるようになった仕事」のひとつが製麺です。
店で出しているラーメンとうどんの麺に加えて餃子の皮は自家製なので週に1〜2回まとめて麺を仕込む仕事がありました。
私が働き始めるまでは料理長のエイキチさんがひとりでやっていた仕事だったようです。
しかし私が興味津々で近づいたところ、やり方を教わりいつの間にか私の仕事になっていたのです。
製麺機は60年ほど前に日本で作られたものをシドニーまで持ち込んで来たらしく、全長2m重さは200キロを超えます。
また古いシステムなのでかなりのクセがあります。
気をつけないと指ちぎれるよ
一歩間違えば大怪我必至、非常に危険な機械なので使いこなすには技術と多くのコツを要します。
ひとりで小麦粉から製麺まで完結出来る様になるまで1ヵ月以上かかりましたが、慣れてから以降は製麺は私がひとりで担当し、週7日働くエイキチさんの負担を少し軽く出来たことを嬉しく思っていました。
そんなある日。
またいつものように麺作りです。
10kgの小麦粉袋を持ち上げてキッチン内で作業をしていたのですが、背後から痛いほどの視線を感じます。
振り返ると見覚えのない60〜70代の日本人らしきおじさんがこちらを見ているのです。
製麺機使えるのか?
エイキチ以外ではじめて見たよ!
やるね〜!
それは40年くらい前に俺が日本で買ってきたやつなんだよ
がっはっはっは!
いや誰?
お疲れ様です!
調子はどうだ?
こんにちは
元気か?
私が働いている咲良レストランのオーナーはやすえさんという70歳のパワフル日本人女性です。
- [やすえさん]
ボスと呼ばれているその男はやすえさんの元旦那。
咲良レストランの経営には一切関与していないのに『ボス』と呼ばれている謎のジジイです。
シンくんとか言ったな!
なんかメシ作ってくれ!
俺は肉しか食わないからよろしくな
ライオンは米も野菜も食わないだろ?
だから俺は肉しか食わない!
本来人間は肉だけでいいんだよ!
がっはっはっは!
頼む!
シンプルが一番だ!
焼くだけでいいぞ?
和風ガーリックソースで頼む
ライオンは和風ガーリックソースかけねぇよ!
ごめんねシンくん
気にしないで
変な人だけど悪い人じゃないから
この胡散臭い男。
エイキチさんいわくじつはかなり凄い人だったようです。
その昔シドニーにまだ日本人が少なかった頃。
旅行していたボスとCAだったやすえさんは偶然出会い恋に落ちます。
そして結婚し、ふたりで小さな日本食屋をシドニーで始めたところそれが大当たりしたそうです。
みるみるうちに会社は大きくなり、店舗数は増えに増えFC展開も始めます。
業態も様々、寿司屋、ラーメン屋、居酒屋と日本の飲食店スタイルをそのまま貫くスタイルが大きくウケたらしく大繁盛。
30年間でふたりはシドニージャパレス業界では知らない人がいないほどの超大物になったのです。
上品でシュッとしている都会的なやすえさんとは対照的に、野性的で強そうな見た目のボスはまさに百獣の王ライオン。
現在咲良レストランの料理長エイキチさんは創業の頃からのスタッフで、約30年もの間ふたりの下で働いていたのです。
どうりで親子みたいだと思いましたよ
ボスの野郎盛ってるやん。
しかし大成功を収めたボスは2008年ごろに株と不動産投資で大失敗。
多額の借金を背負ったあと、ついにはお店をすべて手放し、やすえさんとの共同経営は分裂。
さらに離婚、現在は1日中YouTubeを見ている引きこもりニートなんだそうです。
その後またイチから立て直そうとやすえさんがひとりで5年前に立ち上げたのがこの咲良レストランです。
一方ボスは新たに様々な事業を始めたみたいですが、どれもうまくいかずくすぶっている模様。
でもさ、俺にとっては親父みたいな人なんだ
こうやって店に来るのは俺とかやすえさんに会いにきてるんだよ
初めてボスに会った日から、ボスは頻繁に店に顔を出すようになりました。
シンプルでいいからな?
シンプルに焼くだけ!
ワサビ醤油も用意してくれ
ライオンはワサビ醤油使わねぇぞ!
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丸亀製麺シドニー店
お前の仕事っぷり見てたぞ
次の休みはいつだ?
飯でも食いながら話しよう
嫌な予感はしますが、どこかに食事に連れて行ってくれるそうなので言われるがまま指定された場所へ向かいました。
何十年もシドニーに住んでいるボスのことだから、かなりイケてる店に連れて行ってくれるのだろうと期待に胸が膨らみますが…。
ここのうどんすっげーうまいんだよ
よく知ってます…
うどんを食べながらボスは新しいビジネスの話をしはじめました。
要はこの私に参加してほしいとのこと。
内容は新しいスタイルの日本食移動販売らしいです。
もう既にひとりでやっているらしく、今度その販売用のバンを見せてもらうことになりました。
もちろん二つ返事で「やらしてください」は無いのですが、楽しそう&稼げそうであれば興味があります。
しかし思いもしなかったような角度の話をしはじめたボス。
陰謀論をご存知でしょうか。
フリーメイソンとかイルミナティだとか、また世界を牛耳る秘密結社がどうのこうの都市伝説がどうのこうの、そういう話です。
誰もが一度は興味を持ち、面白がってネットで調べたことでしょう。
私も一時期ハマっていて、寝ずにYouTubeの関連動画を見ていた過去がありますし、今でも嫌いではないです。
しかしその類の話は私としては「オカルト」としての位置付けなので、本気でそこらへんを語られても到底真面目に耳を傾けることはできません。
しかし目の前にいるこのボスという男。
現在は毎日YouTubeを見ているらしく、陰謀論にどハマりしている模様。
どうやら肉食になってしまったのもその影響らしいのです。
人類は白人によって90%滅ぼされる
日本だって時期になくなるんだぞ?
もう人種の選別は始まってる
でもなオーストラリアは白人社会だから大丈夫だ
日本人は滅ぶわけにはいかないんだよ!
だから俺はまたこの国で日本人の底力を見せてやりたいんだ!
ケネディ暗殺は共和党がやったんだ!
9.11はアメリカの捏造だ!
東北の震災は兵器によるものだ!
アポロ11号は…
どれもこれも何年か前にテレビやネットでやっていた話。
興味がないことはないのですが、信じた所で私にどうすることも出来ませんし、そもそもボスの新しいビジネスとは関係のないこと。
初めて会った時の何倍も胡散臭くなってきたボスに思うことはただひとつ。
ライオンはうどん食わねぇよ!
今後のワーホリ生活について考える
ちょっとだけシンくん借りる
いいよな?
後日また店に現れたボスは仕事中にも関わらず私を外に連れ出します。
そしてボスがスタートした新しいビジネス・日本食移動販売用のデッカイバンを見せてもらいました。
冷蔵庫もついてるし洗い物もできる!
ガスも使えるんだぜ⁉︎
がっはっはっは!
それは私が想像していたよりもずっと素晴らしい作りの車でした。
車1台で小さい飲食店1店舗ほどの売り上げを作ることができる怪物だったのです。
いや、先進国の都市部ではもう珍しくはないはずだ
お前も分かるだろ?
今はまだ1台だけどな、今後10台20台と増やしていくつもりだ!
そして最終的にはライセンスを売っていくんだよ
もうすでに中国人とかアラブ人が話を聞きたいって来てるんだぜ?
がっはっはっは!
さすが元シドニージャパレス界の王といったところでしょうか。
まだまだビジネスの勘は鈍っていないようです。
これは生春巻!
これはソーセージ!
チーズタッカルビもやりたい!
コンセプトはぶれぶれだな!
ひとしきりバンの紹介をしてもらったあと、ビジネス形態と今後の展開を教えてもらいました。
そしてやはり私にバンに乗って欲しいと熱心に誘われたのです。
それに給料的なものはどんな感じなんですか?
安心しろ
とにかく俺はお前の仕事ぶりを見て惚れた!
あの製麺機使えるなんてたいしたもんだ!
お前しかいない!バンに乗ってくれ!
そして労働ビザもサポートしてやる!
あと知ってるか?
オーストラリアではワーホリの場合同じ雇用主の元で半年しか働けないんだぞ?
シンは咲良レストランでもう5ヶ月目だろう?
半年やったあとは俺んとこ来い!
待ってるぞ
※ワーホリ半年ルールは現在もありますが一部変更されていて、現在では書類の提出により1年間働くことも可能になっています。
ボスが再び陰謀論の話をしはじめたのでここらへんで離脱。
お礼を告げ、店に戻りまた仕事を再開しました。
私はこの半年ルールのことを完全に忘れていました。
つまり間も無く咲良レストランを辞めなければいけないのです。
毎日毎日忙しく働き続けていましたが、ボスのこの発言により急に残りのワーホリ生活について深く考えることになりました。
タイ・ラオス編で金を使いきり、一文無しでシドニーに到着してからは金を稼ぐ事だけを考えてガムシャラに働いていました。
4ヶ月が過ぎ、7,000ドルの貯金が貯まり、そろそろ次のことを考えはじめても良い時期かなということに気づいたのです。
しかしそうなるとあれもやりたいこれもやりたいと溢れるようにやりたいことが出てきます。
またボスの所で働くとシドニーに居続けることになるので、本来放浪癖丸出しのバックパッカーである私としては本望ではありません。
それにぶっちゃけボスの胡散臭さがすっごいので、バンに乗った所で今までのように稼げるとも限りません。
またボスと手を組んで巻き寿司を武器に世界を牛耳る秘密結社に立ち向かう自信がないのです。
私のような人間を熱心に誘ってくれたこと、また期限付きのワーホリ生活を見直すきっかけをくれたことへ感謝しながらやんわり断りました。
店に戻ってその話をしていたところ…
シンさんも言われたんですか?
じつは僕も前に誘われたことがあるんですよ
じゅんぺい君も⁉︎
俺も会うたびにやれって言われてるよ
毎回断ってるけど
ボスよ!
あんた誰でもいいんかい!
結局ボスは誰でもいいからスタッフが欲しいだけのようです。
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